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2-07 № 07 · 2026

中身は文字で持ち、
見た目は型に分ける。

中身は文字で持って git に入れる。Excel も Word も Claude Docs も、入口と出口を通過させる道具にする

文書で取り戻すのは、置き場ではない。中身の持ち方だ。

2-06 で仕事場(Forgejo と Zed)を据えた。文書は、その上に置く。文書のための別の仕組みは立てない。2026 年に入って、文書が住める場所は三つに増えた。Office、自前の道具、そして Claude Docs である。三つとも便利で、三つとも鍵は他人か自分かのどちらかに寄っている。だから先に決めるのは、どこに置くかではなく、中身をどの形で持つかのほうだ。

事務の物を、使われ方で三つに分ける

Word と Excel で作っていた物は、一つではない。読む物、触る表、刷る紙の三つで、それぞれ持ち方が違う。

使われ方 例 持ち方 出口
読む物 報告書、提案書、規程、手引き AsciiDoc の文字で書き、git に置く(2-06) PDF・HTML。相手が要るなら .docx
触る表 作業中の集計表、突き合わせ、名簿、台帳 格子の画面で作る。データは格子の外(2-03) そのまま .xlsx で出入り
刷る紙 公表する統計表、申請書、帳票、請求書 形はテンプレート、値は文字 PDF。相手の様式なら、値を入れた .docx .xlsx

どれが多いかは、仕事で決まる。統計なら触る表と刷る紙、企画や士業なら読む物、総務なら刷る紙が大半だ。三つとも決めてあるので、自分の仕事に合う所から始めればよい。

読む物は文字で書き、git に入れるのは原稿だけにする

Word で文章を書くと、見た目に時間を使いすぎる。文章が大事なら、文字で書いてエディタでよい。決めることは二つしかない。

一つ目。原稿は AsciiDoc(.adoc)の文字で持ち、Forgejo のリポジトリに置く。文字のファイルなので、誰が、いつ、どの行を変えたかが残る。直しの相談は、コードと同じプルリクエストでやる。エディタは Zed(2-06)で、その中から AI を呼ぶ。.docx は中身が圧縮された XML なので、差分が読めない。文字で持てば、AI がそのまま読み、そのまま書ける。

二つ目。git に入れるのは原稿だけにして、デザインは入れない。見た目を決めるテンプレートは、原稿とは別の置き場に持つ。同じ原稿に別のテンプレートを当てれば、別の体裁で出る。刷るのは、AI が書く数十行のビルドだ。このサイト自身が、その形で動いている。

原稿/            ← git に入れる。.adoc の文字だけ
  2026-09-事業報告.adoc
テンプレート/    ← 見た目の決め。別の置き場
  houkoku.tmpl.adoc
出力/            ← 刷った結果。git に入れない
  2026-09-事業報告.pdf

原稿が文字なら、出口は選べる。PDF に刷る。HTML にしてサイトに載せる。相手が Word を要るなら .docx に書き出す。どれも同じ原稿から出る。

触る表は格子で作り、データは格子の外に置く

表は、読む物とは違う。並べて眺め、おかしい数字に気づき、切り口を変え、注記を足す。この往復が仕事の本体で、格子の画面が要る。だから 格子はそのまま使う。Excel のままでもよいし、Euro-Office(ONLYOFFICE)でも LibreOffice でもよい。使いやすい Office として作っている途中の aiseed office(aiseed-dev/officework) でもよい。格子は見て触る場所であって、保管の場所ではないからだ。

決めるのは、格子の外のことだ。

どこまで Python に寄せるかは、人による。寄せられる人は、JupyterLab と Polars(2-04)が格子の代わりになる。表を眺めて切り口を変える往復は、セルの再実行でできる。格子が要る人は、格子に残せばよい。できるだけ Python に寄せる。ただし、寄せる速さは自分で決める。

刷る紙は、型に値を流す

公表する統計表、申請書、帳票、請求書。これらは用紙に刷る物で、*頁の形そのものが中身*だ。作っている間は触る表でも、刷る段になれば、ここに移る。

持ち方は一つに決まる。形はテンプレートで持ち、値は文字で持つ。テンプレートに値を流し込んで、出す。

格子の画面で見た目を整える仕事が、ここで消える。値を直せば、同じ型から同じ形で出る。

Office は「使う」のではなく「通過させる」

Office から離れる理由を、まず誤解しないでほしい。これは効率化の話ではない。作業が速くなることは結果として起きるが、本質ではない。

事務処理を三つに分ける。

これまで多くの人は、三つとも Office で行ってきた。Word が来たら Word で開き、 Word のまま編集して、Word のまま返す。だが中身まで Office にしている限り、次の節で見るとおり AI は同僚にならない。

flowchart LR In["入口
Word / Excel / PDF
(他の人から)"] Mid["中身
adoc の原稿 + 構造化データ
(git の中)"] Out["出口
Word / PDF / HTML
(他の人へ)"] AI(("AI")) In -->|通過| Mid Mid <-->|相談・判断| AI Mid -->|通過| Out classDef office fill:#fef3e7,stroke:#c89559,color:#5a3f1a classDef native fill:#e8f5e9,stroke:#7a9a6d,color:#3a4d34 class In,Out office class Mid native

だから .docx・.xlsx・.pptx は、中身が住む場所ではなく、入口と出口で人とやり取りするための交換形式だと捉え直す。組織のルールは変えない。自分の中身の主導権だけ取り戻す。

Office の中では、AI は同僚にならない

なぜ中身を閉じた形式の外へ出すのか。Office の中にいる限り、AI は道具のままで、同僚にはならないからだ。

Word ファイルを AI に渡しても、毎回変換が起きる。.docx を解凍し、XML を読み、書式を剥がして、テキストを取り出す。Excel も同じで、セルの座標、書式情報、結合セル、シート間の参照が、AI と中身の間に挟まる。

結果として、AI は使えるが、同僚にはならない。「全文を読んで論点を整理して」と頼めてもレイアウトが崩れ、「この表を分析して」と頼めても結合セルや書式付きの値で混乱する。

中身を文字と構造化データに降ろした瞬間、この壁が消える。AI は直接読み、直接書き、考えを返す。編集の道具としての Office はそのまま残る。ただし中身は、 AI が触れる場所に保つ。

「処理する人」から「判断する人」へ

Office の中で事務処理をしている限り、自分は処理する人のままだ。Excel を集計する人、Word を整える人、数字を貼り直す人である。これらは AI が受け持つ仕事であり、AI が安くなれば、組織はその役割から人を引き上げる。

縮むのは、手で作っていた所だ。統計表は、手で作る工程が長い。集める、整える、突き合わせる、表に組む、注記を付ける。この工程を AI が受け持つようになると、作成の期間は大きく縮む。人に残るのは、切り口を決めることと、出た数字の意味を読むことだ。決算は違う。仕訳から財務諸表までは、すでに会計の仕組みが出す。AI で縮むのは、残っていた手作業(注記、開示の文章、照合)の分だけで、統計表ほどは縮まない。 縮み方は、どれだけ手で作っていたかで決まる。自分の仕事のどこに手作業が残っているかを見れば、AI が効く所が分かる。

月次の売上報告書なら、こうなる。届いた .xlsx は機械が取り込み、集計は AI が書き、文章も AI が下書きする。自分がするのは、「今月の前月比の伸びは、どの顧客の影響か。続くのか。営業の打ち方を変えるべきか」を考え、解釈と判断を書き加えることだ。 Excel の中で集計操作をしている間は出てこなかった問いが、構造化された手元データと AI を前にすると立ち上がる。

処理する人は AI が受け持つ。判断する人は残る。中身を取り戻すことは、残る側に移ることだ。

Claude Docs は、通過させる道具として使う

2026-09-16 に、Claude Docs がベータで出た。会話の中で文書を作り、人が直接編集し、コメントを付け合い、共有するところまでが Claude の中で完結する。 2026-10-05 に確かめた時点で、Pro・Max・Team・Enterprise で使える。

下書きを作って、直して、相談する場所としては、いまある中でいちばん手が少ない。同時に、構造は Microsoft 365 と同じである。

違う点が一つある。出口がはっきりあることだ。Word、PDF、Markdown、Google Docs に書き出せる。Markdown まで出せるということは、原稿を文字で手元に落とせるということだ。

だから置き方が決まる。*Claude Docs は、原稿を作って回す場所として使う。確定した原稿は Markdown で落とし、adoc に直して git に入れる*。中身は手元に残り、Claude Docs は入口と出口を通過させる道具になる。

費用の比べ方も、ここではっきりさせておく。比べる相手は無料の道具ではない。 いま業者に払っている額だ。公開する Web の原稿を制作会社に頼んでいるなら、その一件の費用と比べる。人数分のライセンスを毎月払っているなら、その総額と比べる。2026-10-05 時点で Claude Pro は月 20 ドル(税抜)である(2-02)。

文書が住める場所は三つに増えた。どれを選ぶかではない。中身を文字で持てば、三つとも通過させる道具になる。

既存の文書は移し、社外へは出口で渡す

OneDrive・SharePoint に積まれた文書は、形式を変えずに運ぶ。届いた .docx .xlsx .pdf は、ファイルのままリポジトリに置く(大きい物は Git LFS)。文書のための保管アプリ(Nextcloud など)は足さない。認証も権限も、Forgejo が持っている。

rclone copy onedrive:Documents ./docs/inbox --progress   # 吸い出して、リポジトリに並べる

これまでの物を全部変換する必要はない。これから書く物を、最初から .adoc で書く。 新しい原稿から文字にしていけば、置き場は時間とともに入れ替わる。移行は並行で動かし、移り終えてから旧ストレージを解約する(2-12)。

取引先との共有に、専用の共有基盤は要らない。社外に渡すものは出口から出す。元ファイルではなく、.docx か PDF に変換して、メール(2-08)で送る。受け取りも同じで、届いたファイルは入口で開いてから、手元に入れる。共同で編集までしたい相手には、門番のアカウントを渡せばよい。たいていは、版のやり取りで足りる。

確かめ方

この章は、次の五つができていれば済みだ。

  1. .adoc を Zed で書いて push すると、Forgejo で直した行だけが差分に見える
  2. 同じ原稿から PDF と HTML の両方が出る
  3. 格子で作った .xlsx を Polars が読み、集計を .xlsx に書き戻して、格子で開ける
  4. 相手の .xlsx の様式に値を入れた物が、相手の Excel で崩れずに開く
  5. 社外に .docx か PDF を出口から渡せる
git diff 原稿/2026-09-事業報告.adoc     # 直した行だけが出る
uv run python build.py                  # 同じ原稿から PDF と HTML

人が持つ物

人が渡す値

AI が「やる前に言う」操作

確かめた版と日付

まとめ

置き場を選ぶのではなく、中身の持ち方を決める。

次章では、もう一つの大きな事務処理であるメールを自分の側に置く(2-08)。


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